70:幼児虐待
妻と僕が入浴していると、「お菊」のやつが、「にゃーお!! にゃーお! にゃーーーーおーーーー!!!」と狂ったように鳴き叫ぶ。そして、一階のリビングルームの棚の上に置かれた小さな猫のヌイグルミをくわえて、けたてたましく鳴き続けながら二階にある浴室にやって来る。
そのことについては、以前もここに書いた。
今も続いている「お菊」のその行為について、ある読者の女性が、「子育てを始めたのだ」と教えてくれた。つまり「お菊」は、妻か僕を自分の子供に見立て、子供のために餌を運んで来るのだという。
けれど、僕にはどうしてもそれが信じられない。「お菊」のやつに母性があるとは思えないのだ。
つい先日も僕たちが入浴していると、また「にゃーお!! にゃーお!! にゃーーーーおーーーー!!」が始まった。
そのあまりのうるささに、僕は浴室のドアを開けた。
すると、ちょうど、「お菊」のやつが、猫のヌイグルミをくわえてドアの前に立っていた。
「ご飯を持って来てくれたのかい? どうもありがとう」
バカバカしかったけれど、僕は「お菊」にそう言って、ヌイグルミを受け取ろうとした。別の女性読者から、「猫が獲物を持って来た時は、それをもらって食べるふりをしたほうがいい」と教えられていたからだ。
けれど、僕が手を伸ばすと、「お菊」はヌイグルミをくわえたまま立ち去ってしまった。
何なんだろう?
僕は首をひねった。けれど、別に気にはしなかった。猫のやることを、いちいち気にしていたらきりがないから。
その直後に、浴室のすぐ隣にある寝室から、「お菊」の凄まじい声がした。本当に驚くほどの大声だった。
僕は慌てて浴室を飛び出し、濡れた足のまま寝室に駆け込んだ。
すると……「お菊」のやつが床に転がったヌイグルミに襲いかかり、口にくわえて振り回していたのだ。
びしょ濡れのまま、僕は呆然と「お菊」を眺めていた。
「お菊」のやつはヌイグルミを遠くに投げ飛ばした。そして、不気味な奇声を上げて再びヌイグルミに襲いかかり、それをくわえて再び振り回した。
その姿はまさに、幼児を虐待している母親のそれだった。
そう。「お菊」は母性本能に駆られてヌイグルミを僕たちに運んで来るのではなく、たぶん、自分の子供に見立てたヌイグルミを虐待しているのだ……というのが、僕の推論です。「お菊」はいかにも、自分の子供を虐待しそうな女子ですから。
でも、猫についていろいろと考えるのはバカバカしいので、これ以上は考えないようにします。にゃーお。




