66:我が家の怪奇現象
ここ1週間ほど、我が家で怪奇現象が起きている。
この家の1階のリビングダイニングルームの棚には、黒い猫のヌイグルミが置いてある。何の変哲もない、フェルト製の小さなヌイグルミである。
このヌイグルミが夜中に勝手に棚から下り、14段ある階段を上り、僕たち夫婦が眠っている2階の寝室に入って来るようなのだ。
これは時々起きる現象ではない。毎晩のことである。
「お菊」のやつが「餌をくれ」と僕を起こすのが、午前6時前後。この時にはすでに毎朝、寝室の床に黒い猫のヌイグルミが転がっている。
「あっ、まただ!!」
僕は思う。
僕たちが眠るのは、たいてい午前2時か2時半だから、ヌイグルミはその後、僕が「お菊」に餌をやる6時までのあいだに1階から2階へと移動しているということになる。
ついに我が家にも怪奇現象が起きたのか・・・。
妻と僕は戦慄した。
けれど、もちろん、そんなはずはない。誰かが移動させているに決まっている。
それは誰なのか?
妻と僕は犯人を探すことにした。
我が家に正式に暮らしているのは(ハエやダンゴムシは正式ではない)、妻と僕、「お菊」、3匹の金魚、そして、肺魚だけである。
金魚と肺魚は水槽から出ることはできないから、犯人である可能性は低いだろう。
僕は犯人ではないし、妻も「わたしじゃない」と言っている。
妻にも真犯人の可能性はあるが、僕は彼女を信じている。
ということは・・・考えられる犯人は「お菊」のやつだけである。
「キクが口にくわえて階段を上って来るのかしら?」
妻は首を傾げた。
「お菊」のやつが何かをくわえて歩いているところなど見たことがないから、妻が訝るのは当然のことである。
「もしかしたら、この家の中には『アンダー・ユア・ベッド』の三井直人みたいなやつがいるのかもしれないぞ」
僕はそう言って笑った。
実際、妻は学生時代に、アパートの部屋に大家の息子に毎日のように忍び込まれ、タンスの中の下着や、アルバムに貼ってあった写真を盗まれるという恐怖を体験している(その実話を元に僕は『アンダー・ユア・ベッド』を書きました)」
「お菊」がヌイグルミをくわえて階段を上っている場面は想像しにくい。だが、おそらく、犯人は「お菊」なのだろう。
そう。おそらく、僕たちが眠りに落ちたあとで、「お菊」のやつはこっそりと1階に下り(「お菊」も普通は寝室で眠ります)、棚に飛び乗ってヌイグルミを口にくわえ、2階の寝室まで運んで来るのだろう。
どうして、そんことをするんだろう?
僕たち夫婦はまたしても首を傾げた。
そういえば、読者のかたから、猫は外で捕まえた小鳥やネズミやモグラを(僕はモグラを見たことはありません)、飼い主のところに運んで来るのだと聞いたことがある。うまく獲物を捕獲したことを、飼い主に褒めてもらいたいらしいのだ。
もしかしたら、「お菊」もそういうつもりなのかもしれない。あのヌイグルミを獲物に見立てて捕獲し、妻や僕に褒めてもらうために寝室まで運んで来るのかもしれない。
それがいちばん考えられることである。
だが、確定的な証拠はない。
もしかしたら・・・「お菊」は冤罪で、本当はヌイグルミが自分で棚から飛び降り、階段を上り、寝室に入って来ているのかもしれない。あるいは本当に『アンダー・ユア・ベッド』の三井直人のようなストーカーが、この家の中に潜んでいるのかもしれない。
はい。おそらく、今夜もこのヌイグルミは寝室にやって来るはずです。僕は何とかその瞬間を見たいものだと切望しております。
今回もバカバカしい話でした。ごめんなさい。にゃーお。






