64:猫で良かった
ここ東京都町田市は僕が育った土地なので、弟夫婦も近くに暮らしている。
以前はめったに会わなかったのだが、近いものだから、最近は弟の家族ともよく会うようになった。
弟には12歳になる娘と、10歳と8歳の息子がいる。
この3人はとても明るくて、とても元気だが、みんなとても礼儀正しくて、いい子たちである。
もちろん、この子たちがいい子になったのは、弟とその妻の「しつけ」がいいからに違いない。
特に弟は子供たちが悪いことをした時には本気で怒る。そして、いいことをすると、よく褒める。このメリハリがいいのだろう。
弟が自分の子供たちに接する態度を見るたびに、「たいしたものだなあ」「僕にはできそうもないなあ」と思ってしまう。
はい。そうなのです。僕は「しつけ」というものが、まったくできない男なのである。
僕が「しつけ」をできないことは、飼っている生き物を見れば一目瞭然である。
かつて我が家にいたパグ犬のピーナッツは、動物病院の獣医師に、「もう長くこの仕事をしているけど、こんなに悪い犬は見たことがない」と言われたほどに性格の悪い犬だった。いや、最初から性格が悪かったわけではない。僕が甘やかすだけで、「しつけ」をしないから、とてつもなく性格の悪い犬になってしまったのだ。
そんなわけで、「お菊」のやつも、いつの間にか、とてつもなく性格の悪い猫になってしまった。我がままで、気分屋で、高慢で、臆病で、何かあるとすぐに切れるのだ。
朝はまだ暗いうちから大騒ぎをして「餌をくれ」とねだる。餌が終わると、意味もなく「にゃーお、にゃーお」と泣き叫ぶ。抱き上げると「ふっー!!」と言って威嚇する。呼んでも絶対に返事をしない。自分がふざけたい時は近寄って来るくせに、気分が乗らない時は近寄りもしない。毎日のコーミングは大嫌いで、妻や僕に本気で噛み付き、本気で引っ掻く。夕飯の時はいつも僕のそばにいて、チーズや生ハムの脂身などをくれと、しつこくねだる・・・・とにかく、性格が悪いのだ。
「キクがこんなに悪い子になったのは、全部あなたのせいよ」
妻はいつも僕に言う。「キクが人間じゃなくて、本当によかったわ。人間だったら、どんな悪い娘になっていたことか!!」
だが、僕は妻に言い返す言葉を見つけられない。
たぶん、妻の言う通りなのだ。
もし、「お菊」が人間の娘だったら、僕は甘やかすだけ甘やかし、ねだるものは何でも買い与え、行きたがるところにはどこにでも連れて行き、悪いことをしても怒らなかったに違いないのだ。そして、「お菊」は、高慢で、高飛車で、我がままで、意地悪で、自分勝手で、気まぐれで・・・とにかく、とんでもなく悪い娘になっていたに違いないのだ。
ああっ、猫で良かった。
最近、つくづくそう思うのである。にゃーお。





