44:旅先で
ひとつの本を書き終えると、僕はしばしば海外に旅に出る。
このところ、マカオでカジノにはまっているが、その前はたいてい南の島に出かけていた。
執筆を終えての旅はいつも楽しいのだが、時折、心に引っ掛かるものがある。それは自宅に残して来たペットのことである。
昔、パグ犬のピーナッツがいた頃、旅先ではしばしばピーナッツのことを考えた。
「今頃、ピーナッツはどうしてるだろう?」「寂しがっていないだろうか?」「早くまた一緒に散歩したい」
そんなことばかり考えていたから、旅が終わるのは残念ではなく、むしろ楽しみでさえあった。
さて、「お菊」も海外に連れて行くわけにはいかないから置いて行く。かつてはペットシッターの人に1日に2回ずつ自宅に来てもらっていたこともあったが、最近は同じマンションに暮らす義母に預けている。
ピーナッツと同様に、以前は旅先で僕は「お菊」のことをしばしば考えた。
特に義母が電話で「あんたたちが出かけてから、ずっと鳴き通しだよ」なんて言うと、心配で心配でたまらなかった。
けれど・・・いつの間にか、「お菊」は義母宅での留守番にすっかり慣れたようである。出かけた日には今も機嫌が悪いようだが数日で慣れ、食事も排便も何の問題もないらしい。犬と違って猫は手がかからないから、義母も楽のようだ。
そんなわけで、最近は旅先でも僕が「お菊」を思い出すことはあまりない。時々、ぎゅさと抱き締めたくはなるが、それだけだ。
だから、今回のマカオでも「お菊」のことはほとんど思い出さなかった。
さて、29日の深夜に帰国して、30日の午後に「お菊」を迎えに行った。
だが、いくらインターフォンを鳴らしても応答がない。どうやら、義母は留守のようだった。
僕は中の様子をうかがうために、義母の部屋のドアポストを指で押し上げた。すると、そこに「お菊」の顏があったのだ!!
ドアの向こうに2本足で立った「お菊」は、僕と目が合うと、「にゃー」と可愛らしい声で鳴いた。
僕は慌てて自宅に戻り、義母の部屋の合鍵を使ってドアを開き、玄関のたたきにいた「お菊」を抱き締めた。
ただいま、「お菊」。
たったそれだけのことですが、僕にはとても嬉しい瞬間でした。にゃーお。





