43:紙も丸められない
執筆にはシャープの「書院」という古いワープロを使っているのだが、思いついたことはすぐにメモ帳に書き留めるようにしている。
このメモ帳は、妻が何かの裏紙を切り取ってクリップで束ねてくれたものである。
メモしたものを小説に書いてしまうと、あるいはそのメモが不要になると、僕はその紙を小さく丸めてゴミ箱に投げ捨てる。
「シュート!!」
だが、僕はコントロールが悪いので、ほとんどはゴミ箱に入らない。で、どうなるかというと、次の瞬間には「お菊」のやつが丸めた紙に飛びつくのである。
そうなのだ。どういうわけだか、「お菊」は丸めた紙に目がないのである。
いや、正確に言うと、そうではない。「お菊」が好きなのは、丸めた紙ではなく、僕が投げた瞬間の紙なのだ。丸めた紙が落ちて動かなくなると、もう興味を失う。そして、僕に再び投げるように要求する。
もちろん、言葉で言うわけではない。
「投げてくれ」と、目で訴えるのだ。
うーん。しかたがない。僕は「お菊」の訴えに弱いのだ。
僕はワープロの前を離れ、落ちた紙くずを拾い上げる。そして、「お菊」目がけて投げてやる。
パシッ。
「お菊」はそれを叩き落とす。
はい。それだけで終わりである。
「お菊」は再び、「投げてくれ」と目で僕に要求する。
しかたなく僕はまた紙くずを拾い上げ、「お菊」に向かって投げる。
パシッ。
「お菊」はそれを何なく叩き落とす。
それで終わりである。そして、「お菊」はまたしても、「投げてくれ」と目で僕に要求する。
僕が投げる。「お菊」が叩き落とす。僕が投げる。「お菊」が叩き落とす。僕が投げる。「お菊」が叩き落とす・・・。
こんなことの何が楽しいのかは知らないが、「お菊」には楽しいらしい。その上、猫というのは、飽きない生き物である。何度でも同じことを繰り返したがる。
だが、僕のほうはすぐに飽きる。10回も続けると、心の底からうんざりする。
ついさっきも、僕は使用済みのメモ帳をくちゃくちゃと丸めた。
すると、どこからともなく「お菊」のやつが登場した。
そうなのだ。「お菊」はどこで何をしていようと、僕が紙を丸める音を聞き逃さないのだ。たとえ眠っていようと、僕が紙を丸めた瞬間には目を覚ますのだ。
「投げてくれ」
目覚めたばかりの「お菊」が目で訴える(血圧の高いやつだ)。
しかたなく、僕はそれを投げる。
パシッ。
それを「お菊」が叩き落とす。
「投げてくれ」
再び「お菊」が要求する。
僕はワープロの前を離れ、また紙くずを拾って投げる。
パシッ。
僕が投げる。「お菊」が叩き落とす。僕が投げる。「お菊」が叩き落とす。僕が投げる。「お菊」が叩き落とす・・・。
あーあ。これじゃあ、執筆がはかどるはずがない。
そんなわけで、僕は今では、紙くずを丸めることさえできなくなってしまったのである。にゃーお。





