32:チンチラシルバー
僕はめったに外出しないのだが、先日、何となく妻とふたりで近所の「オリンピック平塚店」に行った。
店の2階にはペットショップがあったので、何げなくのぞいてみた。
するとそのショーウインドウの中に、白いチンチラがいたのである。
白いチンチラなんて、ペットショップにはよくいるし、今までは何とも思わなかった。
だが、そのオスは僕たち夫婦の琴線に触れた。そいつの顔が我が家の「お菊」にそっくりだったのだ。
「かわいい!!」
妻と僕は声を合わせて叫んだ。
おまけにそのチンチラの誕生日は4月15日、「お菊」と同じである。
これは何かの巡り合わせかもしれない。
「どうする?」
「飼おうか?」
妻と僕は顔を見合わせた。
猫の衝動買いは僕たちの得意な分野である。
だが、今回は何とかその衝動を抑え、いったん家に戻った。
その理由はふたつ。
ひとつ目の理由は、そいつが15万7,500円(ワクチン代別)もしたことである。
売れ残りの「お菊」は10万5,000円だった。死んだパグ犬のピーナッツだって12万3,600円だった(当時の消費税は3パーセントだった)。
それに比べると、高すぎる!!
ふたつ目の理由は、そいつが家族として加わることに「お菊」が猛烈に反対するに決まっているからだ。
どういうわけか、我が家の動物たちは同類が大嫌いである。ピーナッツは散歩に出てもほかの犬には絶対に近づきたがらなかったし、「お菊」も同様である。
僕たちは時々、「お菊」を抱いて目の前の公園に散歩に出る。公園にはたくさんの野良猫たちがたむろしている。その野良猫たちに対して、「お菊」はひどく敵対的である。
「お菊」に興味をもった野良猫たちが近づいて来るだけで、「お菊」のやつは、「ふーっ!!」と威嚇するのである。
「お菊」が嫌がるなら、飼うことはできない。だが、それでも夫婦は、やはりその白いチンチラを飼いたいのである。
「どうする?」
「どうしよう?」
僕たちは悩み続けた。
そんなある雨の晩の深夜、ゴミを捨てにマンションのゴミ捨て場に行った。何げなくエントランスホールの自動ドアの外に目を向けた。
するとそこで、2匹の野良猫が雨宿りをしていた。
それを目にした瞬間、僕は白いチンチラを諦めた。
白いチンチラは僕たちが買わなくても、誰かが買うだろう。そして、きっと可愛がられるだろう。
もし、どうしても猫を飼いたいなら、わざわざそんなチンチラを買わなくても、野良猫を拾って来て飼えばいい。
そういうことだった。
そんなわけで、僕はとりあえず、白いチンチラを断念した。
だが、妻はまだ断念していないようである。「お菊」が何か悪さをするたびに、「悪い子だと、白いのを飼うぞっ」と言っている。
いったん外での生活に慣れた野良猫をマンションで飼育するのは不可能だから、子猫を買うしかない。もし、ペットショップで買うなら、あのチンチラシルバーしかない。それが妻の言い分である。
うーん。それを聞くと、いったんし断念したはずの僕の心も揺れ動く。
どうしようかなあ?
おいっ、「お菊」、白いチンチラを買ってもいいかい? にゃーお。



