30:猫VS猫
パソコンに向かって仕事をしている。
あっ。
突然、足首を鋭い痛みが襲う。
見ると、「お菊」が逃げて行く。シッポをピンと立てた後ろ姿が見える。
「お菊」のやつが、僕の足首に噛み付いて逃げたのだ。
畜生っ。
だが、猫になんて関わっている時間はない。
僕は再び仕事に戻る。
しばらくすると・・・また、足首を痛みが襲う。
あっ。
振り向くと、また「お菊」が逃げていく後ろ姿が目に入る。
「お菊」のやつ!!
僕はまた仕事に戻る。だが、今度は本当は仕事はしていない。そのフリをしているだけだ。
足音を忍ばせて「お菊」が近づいて来る。
僕のすぐ脇で身を屈め、僕の隙をうかがっている。
「お菊」が足首にアタックして来た瞬間、僕は「お菊」を捕まえる。
床に押さえ付けて、こらしめる。
だが、「お菊」は嫌そうではない。それどころか、何だか嬉しそうだ。
これでは、懲らしめていることにならない。
案の定、5分もたたないうちに「お菊」は足音を忍ばせて近づいて来る。そしてまた、僕の足にアタックするチャンスをうかがっている・・・。
仕事中、「お菊」と僕は1日中こんなバカバカしいことを繰り返している。
「お菊」は妻には、ちょっかいを出さない。「お菊」のターゲットは僕だけである。
妻に言わせると、最近、「お菊」のやつは、僕のことを人間ではなく、猫だと思っているらしい。猫と猫がじゃれ合うように、僕とじゃれようとしているのだ、と。
妻はさらに、「お菊」が僕を見る目は、「お菊」が妻を見る目とまったく違うと言う。
妻を見る時には「お菊」は甘えた顔をするらしい。だが、僕を見る時には「ふざけようとしている目をしている」のだそうだ。
確かにそれは僕も感じる。僕を見る「お菊」の目、それは猫が猫を見る目だ。
そうだ。「お菊」は間違いなく僕を同類だと考え、ふざけ合い、じゃれ合おうとしているのだ。
うーん。ついに僕は猫と同等にまで落ちてしまったのか・・・。
と、思いつつも・・・「お菊」がこっそりと近づいて来るたびに、反射的に僕はその「おふざけ」の相手を努めてしまうのである。
あーあ。いつから僕はこんな人間になってしまったのだろう? にゃーお。




