11:失踪する
数日前の夜のことである。
夫婦で平塚総合公園に散歩に出かけ、帰宅後に僕がシャワーを浴びていると、妻が「菊がいない」と騒ぎ出した。
「お菊」がいないのは普通のことである。僕は驚かなかった。
我が家は極端に狭いにもかかわらず、家の中で「お菊」と遭遇することは稀である。
たぶん、いつものように、どこかに隠れているのだろう。猫というのは、いるんだか、いないんだかわからない、ゴキブリのような生き物である。
だが、そうではないらしい。どうやら、本当にいないようなのである。
僕は慌てて浴室を飛び出した。
ベッドの下、ソファの下、トイレ、押し入れ、下駄箱の中、カーテンの陰・・・念のために網戸を開けてベランダも見た。
いない。やはり、どこにもいない。
妻はすでに半狂乱になっている。
この夏、我が家ではずっとエアコンを使っていたが、その日は海からの風が気持ちよかったので、玄関のドアをほんの少し開けておいた。もしかしたら、そのわずかな隙間から勝手に外に出たのかもしれない。
玄関のドアを開けておいたのは、僕たちが散歩に出かける前だから、少なくとも2時間以上も前のことである。ということは・・・「お菊」のやつは2時間以上も前に出て行ったということになる。
僕は10階の自宅を飛び出すと、まず解放廊下からマンションの中庭をのぞいた。もし、その中庭に10階から転落した「お菊」の血まみれの死体があったら・・・そう思うと、背筋が冷たくなった。
だが、幸いなことに中庭には「お菊」の死体はなかった。
それで今度は10階から順番に、大きな声で「お菊」の名を呼びながらマンション中を探し歩いた。
どうしてドアを開けておいたんだろう? 僕はすぐ近くで仕事をしていたのに、ドアから出て行く「お菊」にどうして気付かなかったんだろう? 頭の中は後悔でいっぱいである。
もし、このまま見つからなかったらどうしよう? 専門の業者に探してもらおうか? あるいは貼紙でも張ろうか?
10階には「お菊」はいない。9階にもいない。8階にもいない。7階にもいない。心臓が高鳴り、足が震える。妻の泣き顔が目に浮かぶ。
階段を使って4階まで下りて来た僕が「菊!!」と呼ぶと、どこからか「にゃー!!」という悲鳴のような声が聞こえた。
再び「菊!!」と大声で呼ぶ。
するとまた、「にゃー!!」という悲鳴のような声がする。
僕は4階の解放廊下を夢中で走った。すると、何と402号室のドアの前に「お菊」のやつがうずくまっているではないか!!
402号室は僕たちが暮らす1002号室と同じ作りである。「お菊」はそこが僕たちの部屋だと思っていたらしい。
僕は両手で「お菊」を抱き上げた。「お菊」のやつは爪を立てて、夢中で僕の身体にしがみついた。 「お菊」はがたがたと震えていた。
それは感動的な再会ではあった。
そんなふうにして、「お菊」の冒険は終わった。帰宅した「お菊」は信じられないほど大量の水を飲んでいた。
それにしても、4階までどうやって下りたのだろう? いったい402号室の前にどのくらいのあいだいたのだろう? 下りた階段を上るという発想はないのだろうか?
パグ犬のピーナッツは13年間、一度もそんなことはなかったというのに・・・猫というのは困った生き物である。やれやれ。
ところで、デジカメはいまだに直しておりません。今月中には直すようにします。

