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今年のゴールデンウィークは暖かくて天気のいい日が多かった。
行楽日和。
そういうことなのだろう。テレビのニュースでは、行楽地や観光地からの映像がさかんに放映されていた。家族や友人や恋人と行楽地や観光地で遊ぶ人々は、誰もみんな、とても楽しそうだった。
僕は群れるのが大嫌いで、行楽地にも観光地にもまったく関心はないのだが、楽し気な人々の様子をテレビで見ていると、何だか羨ましく思えた。のみならず、強い嫉妬さえ感じた。
ゴールデンウィーク・・・そう聞いて僕が思い出すのは、17年前の朝ことだ。今から17年前、結婚して初めて迎えるゴールデンウィークが始まった朝。あの日、僕は28才で、間もなく29才になろうとしていた。
あの頃はいつも睡眠不足で、いつも眠くてしかたなかったはずなのに、その朝、僕はいつもより早く目を覚ました。きょうから始まる大型連休が嬉しくて、嬉しくて、眠ってなんかいられなかったのだ。もう何ヶ月も前から、妻と僕は「あれをしよう」「あそこに行こう」と、ゴールデンウイークの詳細な計画を練っていた。
その朝、まだ眠っている妻をベッドに残して、僕はコーヒーの入ったカップを持ってベランダに出た。そして、潮の香りのする暖かな風に吹かれながら、ゆっくりとコーヒーをすすり、のんびりと煙草を吸った。
晴れた朝だった。鳥たちの声が聞こえた。マンションのすぐ前に広がる公園では、木々が新緑を眩しいほどに輝かせていた。遠くに江ノ島の灯台が霞んでいた。
人々がみんな行楽地や観光地に出かけてしまったせいか、マンションの周りはいつにもまして静かだった。
やがて・・・目を覚ました妻が背後から僕の肩をポンと叩いた。そして、笑顔で「おはよう」と言った。
ああっ、なんて幸せなんだろう! 人生はなんて輝かしいんだろう!
その瞬間、僕はつくづくそう感じた。
あの頃、僕は小説家になりたいと漠然と願ってはいたが、まだ何もしていなかった。
不規則な生活のせいで、今よりずっと太っていて、今よりずっと不健康だった。会社の仕事はハードで、毎日が息苦しくなるほどのストレスの連続だった。
それにもかかわらず、僕は今でもあの朝、自分を満たしていた幸せのことを思い出す。
あれほどの幸せを覚えたことは、人生でもそう多くはなかった。
今年のゴールデンウィークが始まった朝、僕はあの朝と同じようにベランダに出て、熱いコーヒーを飲みながら煙草を吸った。
17年前のあの朝に比べると、今の僕はずっと多くのものを手に入れていた。なれるはずがないと思っていた小説家になっていたし、経済的にも時間的にも、あの頃よりいくらか豊かになっていた。妻は僕に相変わらず優しかった。飲んでいるコーヒーだって、あの頃よりずっと高価で、ずっとおいしいものだった。
けれど、その朝、僕は17年前の自分ほど幸せな気分にはなれなかった。
年を取ったせいだろうか? 小説を書くということのプレッシャーのせいだろうか?
それとも、毎日が半分は休日みたいなメリハリのない生活をしているせいだろうか?
理由ははっきりしない。
とにかく、このゴールデンウィークが始まった4月28日の朝、僕はつくづく17年前の自分を羨ましく感じたのだった。
読者のみなさま、ごめんなさい。ただの戯れ言です。僕はみんなが遊んでいる時に仕事をする代わりに、みんなが働いている時に遊んでいるんですから、これで「おあいこ」ですよね。

